【11オピニオン面】
唄いつぐ−親から子へ
急場しのぎで訳した「クラリネットを・・・」
シャンソン歌手 石井好子(3)
1951(昭和26)年から約10年間、私は主としてパリで歌っていた。
その間に義兄(朝吹三吉・仏文学者)がユネスコ(国連教育科学文化機関)のパリ本部勤務となり、家族とともにパリに住んだときがあった。
子供は4歳で幼稚園に通い出した。フランス語など全く知らなかったのに、すぐフランスの子供たちの中にとけこんだ。
彼が風邪をひいて幼稚園を休んだとき姉に「留守番」兼「お守り」をたのまれた。
私は手に入れたばかりの「フランス子供の歌」という絵や楽譜のついたレコードアルバムを持参していった。
『アヴィニヨンの橋で』『ロレーヌの田舎娘』『粉ひきのお寝坊さん』といったフランスの子供たちが競って歌う、楽しい歌が10曲のっているすてきなアルバムだった。
子供は夢中になってレコードの前から離れず、また「かけて」と切りなくせがむ。
私はいささかうんざりしたが、ふと「私も歌ってみようか」と思った。そう思って聞いていると、1曲1曲が面白くなって、何度、聞いてもあきなくなった。
日本に帰ってフランス語で歌っていた。だが、ダークダックスと一緒にキングレコードで吹き込みをすることになり、大あわてで日本語訳をつけた。急なことだったのでダークダックスと伴奏者の寺島尚彦、そして私が翻訳をつけた。
私が訳した『クラリネットをこわしちゃった』は小学校の音楽の教科書に入ったため広く知られるようになった。
(歌詞、省略)
最後の4行は原語のまま残した。
子供向きの言葉の遊びで「さあ仲間たちよ 並んで歩きましょう」というだけのことだから、リズムに乗ったフランス語で歌う方が楽しいと思ったからである。
理屈なしで飛び歩くように楽しげに歌ってくれる子供たちは多いのに「オパキャマラド」というところについて、「なぜ日本語で訳さないのか」「なぜ並んで歩くのか」「息はどこで止めるのか、吸うのか」といった理詰めの質問が多いのに戸惑うことがしばしばである。
「フランス子供の歌」のアルバムの中には子守唄も入っている。
Dodo,l’enfant do
という原語だが「DODO」は赤ちゃんをあやすときの言葉なので私は
坊や坊や ねんねんおやすみ
おとぎの国の夢を見ながら
と訳した。
日本の「ねんねんよ」と同じくらい短いけれど、優しい美しい子守唄である。