【15オピニオン面】
唄いつぐ−親から子へ
赤ちゃんにやさしいお産を
赤枝六本木診療所院長 赤枝恒雄(4)
昨年十一月、私の息子が東京都多摩市の聖蹟桜ヶ丘で産婦人科医院を開業した。四代目の「産婦人科の赤枝」となる。
私が開業してから三十年後に当たるが、中の設備やシステムに驚いた。自分の好きなDVDを持参して見ながら出産できるし、ヘアサロンとネイルサロンもあり、料理は東京・恵比寿の「恵比寿ガーデンプレイス」のシェフが常駐して作る。
これが今の若い妊婦さんにウケたらしく、出産予約は満員で、「どうにかしてほしい」と、“割り込み”のお願いが私のところまでくる。新しいもの好きの私の血をひいているようだ。
三十年前の私も、当時としては斬新なアイデアを凝らし開業した。
私は、自分が痛みに弱いから、出産といえども痛いことを、長時間我慢させることは野蛮だと思っていた。そこで、硬膜外麻酔による無痛分娩を始めた。それは、知覚神経だけまひさせる理想的な無痛分娩で、長時間かかっても胎児に麻酔が移行しないし、安全だった。
それなりの評価を得て五年くらいたったころ、若いカップルが「水中出産したい」とやってきた。私は初めてのことで驚いた。が、患者さんのニーズを第一にしていたので積極的に取り組んだ。
関連する参考資料をどんどん読んでいくうちに、今まで得意としていた無痛分娩という出産方法が、患者さんと医療従事者である私の都合で行われ、生まれてくる赤ちゃんを無視したやり方だと気づいた。
患者さんをベッドにあお向けに縛りつけ、おなかには各種の計器を巻き、異常があればアラームが知らせてくれる。だが、分娩室では患者さんただ一人、という状態でいいのだろうか。
各種の計器を準備してうるさい機械音、大人でも目が開けられないほどの強いライト、感染予防のための強いにおいの消毒液・・・。こんな環境に生まれて来た赤ちゃんはどう感じるのだろう。平静な子宮の中から生まれた赤ちゃんは驚き、不安で泣き出してしまう。
出産後の赤ちゃんは泣くのが当たり前というのはウソ。泣かないと足を持って逆さにぶら下げて背中をたたく。泣き出したらお母さんも医師らもひと安心・・・。それは間違いのような気がする。
一方、水中出産では、部屋を暗くして波の音をBGMにして、できるだけ機械音を出さない。もちろん、においの強い消毒剤は使わない。狭い産道の中から一気に空中に出るよりは、水中を通ることで自然な減圧効果が得られる。
陣痛の刺激や産道の圧迫を十時間近く受けた後、知らない世界にたどり着いた赤ちゃんは、胎内にいたときと同じように母親の心臓のリズムを感じ、胎内で聞いていた両親の声が聞こえホッとする。なんと、赤ちゃんは目を開けてキョロキョロ見回すのだ。その表情はとにかくかわいい。
泣くということは、不安や恐怖を感じるということだろう。そのタイミングで子守唄をうたってあげると最高だ。私は「妊娠したら子守唄」が持論だ。胎内にいるときから子守唄を赤ちゃんに聴かせ、仕事で疲れたご主人も同時に癒すことは、家内安全、世界平和への第一歩だと信じている。