【11オピニオン面】
唄いつぐ−親から子へ
地域に残る唄に関心を
静岡県立大教授 高木桂蔵(5)
静岡県は何といっても「お茶と富士山」が自慢だ。関連の唄が多い。茶摘み唄は東部を除いて県内全域にある。例えば、大井川流域の茶摘み唄は、こういう歌詞だ。
お茶は川根か川根のお茶か
味も香りも世界いち
アードントコドン
八十八夜は川根へおいで
汽車ャのなかまで茶の香り
アードントコドン
汽車とは、年間を通してSL(蒸気機関車)を運転している大井川鉄道を指す。そのほかにも「茶もみ唄」「葉うち唄」があるが、次第に機械化作業で忘れられつつある。今、懸命に収録している。
代表的な唱歌『背くらべ』は静岡生まれの海野厚が作詞し、中山晋平が曲をつけた。今年から記念碑の前でみんなでうたい始めた。
最後の部分の「一はやっぱり富士の山」というのが静岡の風景を象徴する。毎年五月五日の朝十時、静岡市立西豊田小学校で開いている。ぜひ参加してもらいたい。
そして、「霊峰富士」。今年は富士宮市の富士山本宮浅間大社が遷座千二百年祭で、ここから拝む富士は「霊なる峰」であり、日本人の心のよりどころだ。世界遺産ではなくとも「日本遺産第一号」に反対する人はいまい。
思い出すのは、広島に原爆が落ちた後、勤労動員されていた女学生たちが、歌って人々を励ました『愛国の花』という愛唱歌だ。
真白き富士の気高さを
こころの強い盾として
御国に尽くす女等は
輝く御代の山桜
地に咲きにおう国の花
この日本人の心に響く名曲を広く復活させたい。
「また戦争が起こる」と主張する人は最近では消えてしまったが、その呪いはまだまだある。それを消すためにも大いに『愛国の花』を歌いたい。老人ホームに行くと、皆さん、涙を流してこの唄を最後までうたわれる。
今、全員が心を合わせてうたう唄が少ないと指摘される。そんなことはない。うたわないだけだ。
その他にも『桜井の別れ』『青葉の笛』『二宮金次郎』『母のうた』『里の秋』(海外同胞引き揚げの唄)や各種のわらべ唄は、日本人の心に染み込んでいる唄である。
子守唄をみんなでうたい、日本の心を取り戻したい。心を一つにするのに唄ほど効果的なものはない。戦後の呪縛から解き放つためにも、みんなで子守唄をうたいたい。
願わくば、皆さんのお住みになっている地域に残る郷土唄や子守唄を採譜していただきたい。それが「日本の心」を守ることにもなるからだ。