【7オピニオン面】
唄いつぐ−親から子へ
読み聞かせで伝える思い
女優 藤村志保(5)
私の母が八十六歳で亡くなるとき、子供返りをして泣きべそをかいて「お母さんのところに行きたい」と言った。
私も、人生の最後は同じことをするかもしれない。けれども、子供を授からなかったので、その次の世代に私のことを「お母さんのところへ行きたい」と言ってくれる人はいない。それは寂しいことだ。
けれども、そういう意味での子供ではなくても、親戚や他の子供たちに「伝えたい」という思いがあり、女優の仕事の合間をぬって、読み聞かせの活動をしている。
きっかけは、ベストセラーとなった絵本『葉っぱのフレディ』が好きで、その翻訳者のみらいななさんと、六年ぐらい前に友達になったことだ。
ななさんは山梨県甲州市の市立甘草屋敷子ども図書館の名誉館長を務める。出版社「童話屋」の社長である、ななさんのご主人は、総合スーパー「イトーヨーカ堂」の十店舗内に開設されている「子ども図書館」の運営にかかわっている。
そこで私が「子どもたちのために本が読めるなら読ませて」とお願いして、子ども図書館や保育園などで読み聞かせのお手伝いをするようになった。
そこでは何十人もの子供たちを前に「一日のほんの短い時間、知らないおばあさんのお話に目を輝かせてくれたら」という気持ちで、
春が過ぎて 夏が来ました。
葉っぱのフレディは
この春 大きな木の梢に近い 太い枝に生まれました。
そして夏にはもう 厚みのある りっぱな体に成長しました。
五つに分かれた葉の先は 力強くとがっています・・・
(葉っぱのフレディ)
といった読み聞かせを続けている。
読んでいる間、会場を見ていると、端の方で“ぼくが、ぼくが・・・”というメッセージを私に送ってくる子がいて、そちらに目を向けると、目の前の子が“私も・・・”といった、さまざまな反応がある。
私も子供たちに、“あなたのことが大切よ、大好きよ”というメッセージを込めている。両親でも親戚でも、それ以外の人でも“あなたのことが・・・”とメッセージを伝えることは大切だ。そうすると子供はすごく安心した顔をする。子守唄も読み聞かせも「言葉で相手に気持ちを伝える」という点では、共通している。
私は六十代後半になり、身の回りを“整理しよう”という気持ちが強くなってきたが、それだけにかえって、命ある子供たちが本当にすばらしいものに思えてくる。子供たちの無垢な目を見ていると、こちらまで元気になり、読み聞かせをすることが本当に楽しい。
これからも続けていきたいと思っている。(談)