【11オピニオン面】
唄いつぐ−親から子へ
結婚前夜の娘に贈った「ハッシュアバイ」
評論家 大宅映子(3)
小学校の先生を7年間していた母は、歌も好きで、バレリーナを夢見ていた、というから運動神経もある。
それに引き換え、父は全くの音痴、運痴。そういう時代ではなかったし、家の環境も悪かったと父は言っていたが、父の歌は一度も聞いたことがない。一度お風呂で浪曲の一節をうなっていたことがあり、皆でしのび足で聞きに行ったのが唯一の思い出だ。
しかし、父も歌がきらいだったわけではないらしく、家族の集まりがあると、長姉の夫でクラシックを学んだ義兄に「そろそろ、オーソレミヨかね」とうながしたものだ。
33歳で亡くなってしまった大事な一人息子の長兄も音楽が好きで、兄の死後毎月墓参りに行き、兄が好きだった曲をテープレコーダーに入れて、墓前で流し、般若心経のあとに、皆で歌うのが常であった。『ふるさと』『新雪』『雪山賛歌』etc。
兎追いしかの山
小鮒釣りしかの川
夢は今もめぐりて
忘れがたき故郷
如何にいます父母
恙なしや友がき
雨に風につけても
思いいづる故郷
こころざしをはたして
いつの日にか帰らん
山はあおき故郷
水は清き故郷
親になってみて初めて分かることだが、子供に先立たれるというのが、どれだけつらいことか。
しかも大事な一人息子で、天使的な才能も持っていた。発作が出るとき以外は何でもなかったから、母は何かの拍子に治るのではないかと、ありとあらゆる良いと思われることはやっていた。やりすぎだ、と心ない言を吐いたこともある。
死後毎月の命日に墓参りに行ったのでは成仏できないかもよ、と言ってしまったこともある。
でも死にはしなくても、子供は親元から巣立っていくものである。私は娘たちに「ねんねんころりよ」の子守唄は好きではなかったと言われてしまったから、二人の娘の結婚の前夜にはもう一つ大好きな『ハッシュアバイ』という歌の歌詞を贈った。
LuLuLa LuLu Hush a bye
Dream of the angels way up high
LuLuLa LuLu Don't you cry
Mama won't go away
Dream in my arms while you still can
Childhood is but a day
Even when you are great big man
Mama won't go away
私の腕の中で夢を見られる間は居てちょうだい。そんな子供の時なんて一瞬なんだから。あなたが大人になってからも、ママはどこにも行かないからね。
1歳半の二女の孫を見ていると、本当にChildhood is but a dayを実感する。手がかかるというよりは手を掛けられるのは、ほんの一瞬と心得て大事にしたいものである。