【15オピニオン面】
唄いつぐ−親から子へ
出産への認識甘い女の子たち
赤枝六本木診療所院長 赤枝恒雄(5)
夜の六本木で私が行っている「街角無料健康相談室」にはさまざまな相談が持ち込まれる。
昨年のことだが、中学生の妊娠相談が二例続いた。一つは、叔母だという人と一緒に来た中学二年の女の子。叔母が「両親とも出産に反対しているが、本人は『産む』といって聞かないので説得してほしい」という相談だった。ムッとしている女の子のカバンからはみ出しているディズニーの手鏡を私は見つけた。
「そのプリクラ見せて」。無視していた彼女が動いた。「それ、ディズニーランドで買ったの?かわいいね」。彼女はカバンから、プリクラを裏側全面に張った四角い鏡を取り出した。そして、「これ誰?」といった質問が出て、自然と会話になっていった。
その後、本題に入って出産についての知識を聞いてみたが、全くの無知である。産む理由は、「彼とただ一緒にいたいから。子供がいた方が楽しい」と漠然とした答え。彼氏は十九歳の土木作業員だという。
もう一つの例は、彼氏と来た女の子。彼氏は六本木のホストだという。年齢を聞いてびっくりした。彼女と同じ十五歳で、背が高く、長髪で黒のスーツを着ていた。女の子は「おろしたら彼に捨てられる」と決めてかかっているようだ。
彼女には、「子供の教育費は大変だから、君が一生懸命勉強して子供に教えてあげなきゃね」と言うと「勉強は嫌だ」。「じゃあ、しっかり働いて子供のミルク代を稼がなきゃね」と伝えると「働くの嫌だ」。
よく聞いてみて分かったことは、彼女が出産について、「勉強しなくていいし、働かなくていいし、『偉い』とほめられることもある」と思っている。だが、本音は、彼に捨てられないための“人質”を取る目的でもあるようだ。
出産し、彼氏と別れた後、子供がじゃまになって、虐待や育児放棄になるケースが多い。私は「育児はそんなに簡単ではないし、覚悟がいる」と説得した。それでも結局、二人は出産した。
子供が二人の間の宝物ではなく、“接着剤”だから将来が心配だ。しかし、十六歳以下の出産は毎年増え続け、悲惨な虐待も増加している。これが現実だ。
最近発生した岐阜県中津川市の中二少女殺人事件でも明らかなように、中学生が夜中に出歩くこと自体、“親は何をしていた”と怒りがこみ上げてくる。「家庭での教育がすべて」と断言したいところだが、自分が受けたような“軟禁状態”のしつけでは、子供たちを家出や夜遊びへと走らせてしまう。
そこで「子供との会話」が重要なキーワードだ。両親との会話時間が長いほど性の初体験が遅くなる事実は、性教育のヒントでもある。何より、幼少期の「子守唄」が大切な親子の絆となってゆく。
頑強な父が亡くなる数年前、寂しそうにぼそっと言った。
「お父さんの育て方、間違っとった」
この一言は私にとって、父との長く深い溝を一瞬のうちに埋めた。思えば“軟禁状態”のレッスンのおかげで、書道は全国学生書道展の金賞を取り、弓道はインターハイの徳島県代表になれたのだ。今は、父に心から感謝している。