【11オピニオン面】
唄いつぐ−親から子へ
伝えたい「雑煮の味」と「子守唄」
内閣府政務官 山谷えり子(4)
女子大学の教室で「“子守唄を聞きながら眠った記憶のある人は手を挙げて”とたずねると50人ほどのうち2人しか手をあげなかった」と知人の教授が言ったことに驚いた。私も講演先で同じ質問をしてみるが、大体似たような割合である。
わが家の末娘は、悲しいことがあると今でも“子守唄をうたおう”と一緒にうたうことがあるのだが、子守唄を知らぬ若者が想像以上に多いのではないだろうか。
夫の両親は広島と岡山の出身である。山田耕筰が編曲して有名になった『中国地方の子守唄』の元唄と思われる歌詞が各郡に残っている。
ねんねこしゃっしゃりましゃ
今日は二十五日
明日はこの子の宮参り
宮に参ったら
何というておがみゃ
一生この子のまめなよに
まめな時にはよ かっぽれ着せて
おんばに抱かせて乳のましょ・・・
(広島県御調郡<みつぎぐん>、資料・日本子守唄協会)
リンカーンは「国民は記憶の糸でつながっている」と語った。夫婦の間に授かった子らに、それぞれのご先祖さまの記憶をつなぐのは、子育ての楽しみのひとつである。
夫と私は、それぞれの祖父母の子守唄、それぞれの祖父母の雑煮の味などをわが子に伝承したいと願った。生きる喜びを知ることにつながると信じていたからである。
“あの人、味があるね”といわれるような人は、ファストフードやヒットソングだけでは育っていない。きっと土着的な別の根っこを持っているにちがいないと考えていたからである。
国会では「日本のうたとおはなし伝承普及議員連盟」(森喜朗会長)がつくられている。私は幹事長として、子守唄、童謡、唱歌、民話、神話、郷土の偉人伝を甦らせ、広める活動をしている。親子の絆のみならず、日本人として、郷土人としての記憶の糸をつなげることで生命力ある個性が輝いていくだろう。
日本子守唄協会の協力を得て、15日に自民党本部で国会議員や子守唄を愛する人たちに向け、各地方に伝わる子守唄コンサートを開く。故郷の子守唄を胸に抱きしめれば豊かな仕事ができるだろう。
子守唄をうたいつぐ活動は徐々に知られ始め、行く先々で唄をうたってくださる方に出会うようになった。
ねんねこ小山のウサギの子
なぜにお耳が長いのか
母さんのおなかにいたときに
枇杷の実 かやの実食べたゆえ
それでお耳が長いのよ
という唄を出張先で聴いた時も、なつかしさで胸がいっぱいになった。なつかしい、美しい唄がうたいつがれずに記憶の糸が切れてしまうのは、さびしいことである。
ある時、皿洗いをしながら、まどみちおさん作詞の『ふたあつ』をうたっていると、22歳の息子が「泣きそうになる唄だね。人間が生きる社会の基礎数字は“一”のように思えるけど、そうではなくて“二”が基礎数字だってこと。夫と妻、親と子、神と人間、自然と人間、生と死、空と大地、過去と現在、現在と未来・・・人間の社会は個が基本ではなくて、つながりが基本だという美しさとあたたかさに気づく唄だよ」とほほ笑んだ。
息子の分析に、改めてナルホド。まどみちおさんは『ぞうさん』の唄も作詞している。